悪しき令嬢の名を冠する者
「フィン」

「はい」

「帰ったら楽しませて頂戴」

「承知しております」

 預けた身体に信頼しているという意思表示を。楽しませて、という言葉に余すことなく報告を、との意味を込める。

 膝裏に添えられた掌に力が入ったということは、バッドニュースでもあるのだろうか。

 私は僅かに重い心持で瞼を下ろした。

 城はあらゆる香が混じっている。王の匂い。姫のニオイ。余所者の臭い。

 そこに混じるフィン特有の薫りに、身を委ねる。暫くそうしていれば、鼓動が落ち着いていくのが分かった。

〝好き〟という心が零れる。花瓶の水が溢れだすように〝私〟が、こぼれ落ちる。ゆっくり持ち上げた瞼は鉛のように重かった。
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