悪しき令嬢の名を冠する者
「どんな人だった?」

「亡くなりました」

「え?」

「私が護りきれなかったせいで亡くなりました」

「お前は随分と大切な人を亡くしているな」

「姉上のことでしょうか?」

「ああ」

「かもしれませんね……いえ、生きていても結ばれない相手でしたが」

「禁断の愛というやつか?」

「ええ」

 凍えていたのは場の空気ではない。ユアンの声だ。

 感情を孕んでいない言葉は美しく振動するのに、俺の心を刺した途端、極点の氷のように冷ややかさを纏った。
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