悪しき令嬢の名を冠する者
「私はエレアノーラ……」

 囁く。

「侯爵家令嬢のエレアノーラ……」

 誰にも聞こえぬように僅かな声で。

「でも私は私……だから消えて……」

 鳥の囀りが、この声をかき消してしまうほどの声量で。

「前の〝エレアノーラ〟は消えて……」

 羽搏きでもいい。

「早く消えなさいよ……!」

 ――本音を掻き消して。

 返事は無い。部屋には一人。心にも頭にも私は一人。それなのに胸を焼く思いだけが存在を主張しているような気がした。

 もう一人の〝エレアノーラ〟を。
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