悪しき令嬢の名を冠する者
「それも恋です」

「え?」

「泥のような……いえ、底なしの沼に嵌りながら、もがいてください」

「みっともないな」

「みっともなさを気にするようでは、その程度の想いなのです」

「ユアン……」

「私の想いはその程度でした。だから殺してしまったのです。貴方も以前はそうだったのでは?」

「ああ」

 彼の言葉に首肯し、掌を見つめる。強く握り締めすぎた皮膚には爪の跡が刻まれていた。
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