悪しき令嬢の名を冠する者
「でも給料はいいのよ。従僕は賃金が上乗せされるから」

「それはフィンから。それで……俺に声を掛けた本当の意味を教えて欲しいんです」

「これからは色々と厳しくなるわ。フィンの居ない時間も増えるでしょう。だから私の身の回りに気を配って欲しいの」

「つまり俺がいない間の護衛ってことだ」

「俺に務まるでしょうか……」

「お前は従僕だ。護衛とは違う。その立場を利用すれば十分だろう」

「って、フィンが言ってるから大丈夫だと思うわ」

「貴女は人を疑ったりしないんですか?」

 澄み渡る湖面のような問いだった。

 ただの疑問。ただの好奇心。きっと天使の容姿を持ち得ていなければ、彼女の逆鱗に触れたことだろう。

「何を言ってるのかしら。疑ってるから身近に置くのよ。そして私が見定めるの。本当はベルナールにしたかったのよ。でも彼、ボーイって歳でもないでしょう?」
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