悪しき令嬢の名を冠する者
「これが以前の手紙ね。見ての通り前半は私への忠告よ。誰のことを指すのかまでは分からないけれど、あの時の状況ではベルナールのことを言ってるのかもしれないわね。
 この手紙を開けたのはベルナール、一緒に居たのはフィンとロビンだったわよね?」

「はい」

 俺と一瞬しか目を合わさない彼女に苛立つ。けれど激しい感情を抱いたところで無意味なのだ。それが分かっているからこそ、俺は真剣な表情を繕った。

「普通に考えれば、この時点でベルナール=シュプギーの構図は崩れるわね。勿論、あの人が嘘つきじゃなければ」

「ベルは違います」

「私もそう思ってるわ。だからそう怒らないでちょうだい」

「すみません……」

「あの人がシュプギーなら私に殺気なんて送らないでしょう? だから違うわ。
 じゃあ、手紙の解説をするわね。これは花言葉を引用してるのよ」

 情けない声を呑み込み、考えを巡らせる。

 彼女にそんな知識は無い筈だ、と零し、横顔を仰げば凛とした様相のレイニー様が口角を上げていた。
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