悪しき令嬢の名を冠する者
「アンタ、俺を疑ってたのか……?」

「勿論。近しい人間を疑うのは当然でしょ」

「信じてくれてると思ってたのは俺だけですか?」

「信じることが真実から一番遠ざかる行為なら、私は疑うことを選ぶわ」

 迷いのない瞳に気圧される。どうしてこの人はこんなにも美しいのだろう、と唇を噛み締めた。

 まさしく男を誑かす為に産まれてきたような人だ。人を頼って、身体を預けて、無邪気に笑って、時には涙を見せる。

 そんなに様々な貌を見せられたら守りたくなってしまうじゃないか。こんなにも心を傾けているのに、レイニー様は信じること一つしてくれないと言うのか。
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