悪しき令嬢の名を冠する者
「まさかヴィンス様が落ちてしまうだなんて思わなかった」
今日もまた同じ床に入った彼らは、お互い複雑な想いを巡らせていることだろう。いや、思い悩んでいるのはヴィンス様だけか。なんて考えいれば、ノック音が僕を現実へ誘った。
扉の開閉音が聞こえ、背後を振り仰ぐ。視線の先には今にも泣き出しそうな顔でドア前に佇むフィンがいた。
「君も大変だね」
「あの二人は結ばれるべきなのかもしれない」
「ヴィンス様は既にカタリーナ様のものだよ」
「破綻寸前どころか姫の部屋に通いもしないのにか?」
何も答えられなかった。夫婦生活がないことは周知の事実。今更、繕うことも馬鹿馬鹿しい。
「最近は懇意にされている」
「この国の未来の為に?」
その通りである。カタリーナ様は利用されただけ。それ以上でもそれ以下でもない。けれども彼が彼女の自室に足を運ぶたび、奥方様はとても喜んでいた。
相手は愛人を囲うような軽薄な男だというのに。
今日もまた同じ床に入った彼らは、お互い複雑な想いを巡らせていることだろう。いや、思い悩んでいるのはヴィンス様だけか。なんて考えいれば、ノック音が僕を現実へ誘った。
扉の開閉音が聞こえ、背後を振り仰ぐ。視線の先には今にも泣き出しそうな顔でドア前に佇むフィンがいた。
「君も大変だね」
「あの二人は結ばれるべきなのかもしれない」
「ヴィンス様は既にカタリーナ様のものだよ」
「破綻寸前どころか姫の部屋に通いもしないのにか?」
何も答えられなかった。夫婦生活がないことは周知の事実。今更、繕うことも馬鹿馬鹿しい。
「最近は懇意にされている」
「この国の未来の為に?」
その通りである。カタリーナ様は利用されただけ。それ以上でもそれ以下でもない。けれども彼が彼女の自室に足を運ぶたび、奥方様はとても喜んでいた。
相手は愛人を囲うような軽薄な男だというのに。