悪しき令嬢の名を冠する者
「その〝平和〟を壊そうとしている人間の言葉かよ」

「仕返しのつもり? 悪いけど君もその一員なんだけど? それに〝平和〟は永遠に続くものじゃない。時には壊すことも必要なんだよ。
 ヴィンス様が望むなら僕はそうする。彼の守りたい人を守るし、彼自身をも守ってみせる」

 元々、ヴィンス様の護衛をしていたのは父だった。衰えた身体を叱責する彼を見て、僕が自ら申し出たのだ。

 王子とは面識があったし、末の皇太子などいないも同然。父がそうまでして守る必要はないように思えた。

 僕が十七歳、ヴィンス様が八歳の時。僕は彼を守る任を請け負ったのだ。

 一度、決めたことはやる。そんな性分だった為、特に嫌だとも嬉しいとも思わなかった。彼の才を見止めるまでは。

 神とは残酷なものだ。僅か8つにして未来を見据えた継承者が王になれないのだから。

 才とは用いる場がなければ、ただの塵と成り果てる。才者だって活躍する場がなければ、ただの人と変わらない。野垂れ死んで生涯を閉じるのだ。

 勿体無い。勿体無いと思ったからこそ、彼には自由に生きて欲しいと願った。父が護った皇太子の人生を、この目で見届けたいと。それが課せられた業なのだと。そう思っていた。
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