悪しき令嬢の名を冠する者
「季節が流れたね。エレアノーラ様が酒場を訪れたのは夏だったかな。今はもう秋の暮れだ」

「幕を閉じるには丁度いいって言いたいのか?」

「僕は君の口から聞かなければいけない。敵なのか味方なのか。そしてシュプギーの正体についてもね」

「お前も俺を疑ってるのか?」

「お前も?」

「レイニー様も俺を候補だと言っていた」

「候補ってことは、まだいるのかな?」

「ヴィンセント様だよ」

「そう」

「怒らないのか?」

「僕に怒る資格があるのかな。
 さて、じゃあ答えを貰おうか。君はどうするの?」

 向かい合う僕達を急かすように雷鳴が轟く。

 嘘吐きは僕か彼か。嵐の中、交わした言葉に喫驚を零せば、揺らぎない瞳が僕を貫いていた。
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