悪しき令嬢の名を冠する者
 馬鹿にも、そんなことが分かるのか。こんなのは、ただの八つ当たりだ。

 過去の自分が恨めしいと思うのも、本当の姿で生きている彼女が羨ましいと思うのも。全て独善的な思想に他ならない。

 幸せは笑顔の人間に寄ってくる。そう説いてくれたのは誰だっただろう。恐らく私に笑んでくれた人なのは確かだ。

 前世の私は飢餓を憂い、自らの空腹を満たす行為をしなかった。

 私が我慢すれば民に食事が回ると信じていたからだ。自身が残した食事が廃棄処分になるなど思いもしなかった。

 好きな服を作らなかったのも同じ理由だ。私が金を使えば服飾屋の子供は死ななかったかもしれない。それが例え〝一人〟を救う為のものだったとしても、人の命に代わりはない。

 自分は人を差別しない高尚な人間だと思っていた。

 けれど川で溺れた子供を助けた際、共に遊んだ複数人の子達が〝姫を危険に晒した〟という罪で処刑されてしまっていることを知らなかった。
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