悪しき令嬢の名を冠する者
「書状は書いたかしら?」

「いや。やはり俺達は俺達のやり方でやろうと思う。全面戦争だ」

「犠牲は最小限に抑えるつもりと言っていたじゃない!」

 走り出した馬車が振動する。感情に身を任せて叫び散らせば嘆息するベルナールがいた。

「だから誰も殺させない。それよりエレアノーラ嬢、あの屋敷から連れ出す条件、忘れたわけじゃないよね?」

「勿論。約束は守るわ。ただし全員揃ってからよ」



 衛兵に扮した彼らが私を罪人として連れ出し拐す。嘘はすぐにばれるだろう。だが、それでいいのだ。

 私が加担していたことを明かすのは終戦後。貴族は襲撃の的となるし、最悪の状況になった際、私は人質として利用される。侯爵令嬢に、どれほどの価値があるかは測り兼ねるが悪い案ではないだろう。

 私は最後まで奇襲をよしとしなかった。開戦を露わにしない諍いでは無駄に犠牲者が出るからだ。しかしベルナールは頑として首を縦に振らなかった。

 リーダーは彼である。ならば従う以外あるまい。蜂起の準備は整った。あと一つ解くべきは、あのことだけである。
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