悪しき令嬢の名を冠する者
 *

 酒場の扉を開けばアルコールの匂いが鼻を突く。中を見渡すと、既にレジスタンスのメンバーや、貴族の面々、ヴィンスにユアンまでが揃っていた。

「主役のご登場かな」

「主役は貴方でしょう。ヴィンス」

 クツクツと喉で笑う彼に、ふわりと笑みを象る。猛々しい獣の如く瞳を研ぎ澄ませた面々は、ベルナールの言葉を待っていた。

「さてと、ついにこの日がやってきた。俺達は城を囲み一気に責め立てる。作戦に関しては耳タコだろうから心得を一つ。
『なるべく殺すな。でも、お前達が生き抜くことが優先だ』
 王を落とせば戦は終わる。背中は預けたぞ」

 密輸した武器を掲げ、咆哮が上がる。士気は十分だ。

「貴族殿、武器の調達感謝するよ。
 彼らには此処で待ってもらう。俺達が失敗したら無理矢理協力させられた、とでも言っておけ。ただし、成功した暁には足で使うから、そこんとこよろしくね」

 ま、失敗なんてしないけど。と続き笑いが起こる。戦直前だというのに、おかしな雰囲気だ。思わず口元を緩める私も、緊張を通り越して高揚を覚えていた。

「準備はいいかな。それじゃあ各自、城を取り囲んでおけ。決行は明日の早朝。日の出と共に」

 ベルナールの声を肯定する声が集約する。暫くすると一人、また一人と店を退出していった。
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