悪しき令嬢の名を冠する者
 何気なく受け入れていた前世の記憶。しかし無い方が当たり前で、幸せなのだ。彼女は〝今〟を歩んでいるに過ぎない。だから肩を落とすのは間違いだ。

 幾度となくそう繰り返し、言い聞かせ、舞踏会や夜会の度に目の端を泳ぐ金糸に見えないフリを決め込んだ。

 関わろうとしなければ接点などない。作らないで、そっと見守ろう。僕が花屋であった時のように。

 そう決めていたにも関わらず、運命とは皮肉な形で僕らを巡り合わせた。

 全ての要因はフィンのたった一言。それだけなのに、僕達は出会ってしまった。
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