悪しき令嬢の名を冠する者
 波打つ金糸よ。どうか踊らないでくれ。華やぐ薫りに口付けたくなってしまうから。

 澄んだ双眸で僕を捉えないでくれ。心まで奪われてしまえば、きっと戻れない。



 言い聞かせろ。僕と彼女は身分が違うと。

 言い聞かせろ。彼女の想い人が僕であるわけがないと。

 言い聞かせろ。彼女は王子にこそ相応しい人だと。

 言い聞かせろ。僕に想いを告げる権利はないのだと。



 それでも愛しいと哭く心はどうしたらいい? せっかく時を巡って再び出逢えたのに、僕達はやっぱり身分違いで、ただの片思いに他ならない。

 地下室での夜のように仮面を被らなければ。笑みは仮面に描いて、偽りの感情で〝ユアン〟を演じよう。それがきっと双方の為だ。
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