悪しき令嬢の名を冠する者
「待って! 私、まだベルナールに訊きたいことがあったのよ!」

「訊きたいこと?」

「ええ! 彼の恋人の〝リー〟について」

「やめてあげてください」

 彼女の口から溢れる名が僕の心を軋ませる。悲痛な面持ちで、そう告げれば彼女は目を丸くしていた。

「安心してください。それは貴女のことではありません」

「でも……」

「嘘ではありませんよ。彼は自らの手で恋人を殺めました。間諜の恋人を」

 押し黙る彼女は何を思っているのだろう。確かに紛らわしい名前だ。〝リー〟なんてリーリエ様を彷彿させる。
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