悪しき令嬢の名を冠する者
「ヴィンセント様、お戯れが過ぎます」

「フィ、フィン!?」

「ああ、邪魔されてしまった」

 先程まで傍らに在った筈のフィンが二人の元へ居る。我慢出来なかったらしい狂犬に歎息し、僕も二人の元へ足を運んだ。

「さて勝利のキスも頂いたことだし、俺は寝る。フィン、レイニーを頼んだ」

「言われなくてもそのつもりです。ゆっくりお休みください」

「ああ、じゃあなフィン。それとユアン、感謝する」

「おやすみなさいませ」

 ひらひらと手を振る彼に会釈し、就寝の挨拶を告げる。そうしていれば椅子が倒れる音が響き、慌てて背後を振り仰いだ。

 視線の先ではエレアノーラ様がフィンに支えられて、やっと立っている。どうやら抱き込む際に椅子にぶつかってしまったようだ。彼らの背景と化している木造りの椅子は、寂しく横たわっていた。
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