悪しき令嬢の名を冠する者
「どうされました?」

「腰が抜けたのよ……!」

「え?」

「ユアン……次はちゃんと止めに入りなさいよね! シュプギーの時の意気込みは何処へ行ったのかしら!?」

「は、はい」

 意気込みとはなんのことだ、と疑問符を浮かべながら慌てて頷く。あまりの剣幕に笑いが込み上げ、僕はそのまま笑声を零していた。



 高飛車、我儘、美人、悪女。



 彼女は様々な言葉を投げ掛けられていたが、結局ただの少女に過ぎない。それこそ口付け一つで腰を抜かしてしまうほどには。

 僕の笑い声に怒気を深める彼女。騒々しさを聞きつけたベルナールが般若の形相で店に乗り込んできたのは、それから三分ほど後の話だった。
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