悪しき令嬢の名を冠する者
「どうして……マリ―一人で……」

「やはり旦那様の読みは正しかったようですね」

 辺りを見渡したかと思うと胸元からナイフを取り出す彼女。空気がざわつき、私の心臓は暴れていた。

 マリーはただのメイドだった筈だ。気弱で心優しい彼女とは、もう三年の付き合いになる。

「どういう意味かしら?」

「お嬢様、私がどうしてヴェーン家のメイドをしていたと思います? 紛れ込んでいたのはフィンレイだけじゃないのですよ」

「どういうことですの……?」

 しかし、私の目の前で言葉を連ねているのは、アンティークドールのように冷たい瞳の女だった。
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