悪しき令嬢の名を冠する者
「レイニー様……」

「戦場では邪魔でしょう? コレで少しは早く走れると思うわ」

「はい。必ずお守り致します」

 フィンが私に背を見せる。ベルナールの瞳も殺気で満ちていた。決行の合図は存在しない。

 二人が地面を蹴ると同時にコトは終わっていた。

「行きましょう。レイニー様!」

「マリー!」

 フィンが私の手を取ると同時に、ベルナールが彼女の名を呼ぶ。思わず顔を向ければ満面の笑みが飛び込んできた。

「生きててよかった」

 微かに零した「はい」という単語に二人の歴史を垣間見たような気がする。マリーも彼のように笑っているのだろうか。

「もう〝リー〟とは呼んでくださらないんですね」

「ねぇ、もしかして……」

 投げかけようとした問いが銃声に掻き消される。目尻を拭った彼女に、私は何も言えなかった。
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