悪しき令嬢の名を冠する者
「すみません。レイニー様」

 マリーの声に呼応しない彼が、私の首に腕を回す。抵抗する間もなく彼に捉えられた私は、気づけば血塗られた刃を喉元に突きつけられていた。

「どういうことだフィンレイ!?」

「はじめから大人しく従うつもりはありませんでした。早く扉を開けてください。レイニー様と、あらゆるものを交換するんですから」

 耳介を撫でる吐息が冷淡な言葉を運ぶ。愛を囁いた時とは違う抑揚ない声音に身体が震えた。
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