悪しき令嬢の名を冠する者
「侯爵様、お相手は此方では?」

「元気が戻って嬉しいねぇ」

 間延びした声でヴィンスの切っ先をいなし、ひらりと身を翻す父。

 そんな父から私達を庇うように立ったヴィンスは、悔し気に柳眉を寄せていた。

「どうやら勝機は薄いらしいな」

「ヴィンス……?」

 嫌な予感がした。薄ら笑う彼がユアンを見つめる。意味など分かりたくなかった。
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