悪しき令嬢の名を冠する者
「ユアン命令だ。レイニーを連れて亡命しろ」

「ヴィンス様なにを!?」

「お前は昨晩、俺の背中を押してくれたな。
 今度は俺の番だろ? 託すならお前がいい」

「そんなの利いてなんかやらないわよ!? 絞首台になら私だって行くわ!? 仲間を見捨てて逃げろなんてあんまりよ!?」

「レイニー、俺は変わったお前を見て別人だと思ったよ。あの頃の気位の高い君は死んでしまったと思ってた。
 でも花を愛でる君を見て、俺はもう一度恋に落ちたんだ。二度恋をした相手を死なせるわけにはいかないだろ」

「そんなの勝手な言い分だわ! 私には私の責任があるの! だから……」

「昨日の言葉は取り消す。ユアンと幸せになってくれ」

「話は終わったかな?」

 私の言葉を遮り、ヴィンスが儚く笑う。

 そんなものはいらない。そんなものはいらないのだ。

 だから、この場にいることを認めて欲しかった。

 それなのに父が再び切り掛かってくる。けたたましい金属音が私の鼓膜を震わせた。
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