悪しき令嬢の名を冠する者
「すごい……」

「前世で貴女が死んでから、僕は二度と大切な人を死なせないと誓った。でもヴィンス様は守れなかった」

 声に抑揚はない。にも関わらず、胸に突き刺さるのはなぜだろう。大人しく彼の首に腕を回した私にユアンが笑ったのが分かった。

「だからエレアノーラ様を守る。僕が転生したのは、きっと貴女を死なせない為だから」

 凄まじい速さで城を駆けるユアン。流れる情景に私は涙を零すことしかできない。

 情けなかった。戦に勝てない私は悪戯に民を苦しめただけで、これでは前世と変わらない。それなのに事の重大さが分かるからこそ、心が痛んで仕方なかった。
< 303 / 374 >

この作品をシェア

pagetop