悪しき令嬢の名を冠する者
「心配かけたな。レイニー」

「レイニー様、泣かないでください」

 ヴィンスとフィンの声が降ってくる。もしかしたら夢かもしれないと逡巡し、顔を上げるのを躊躇っていれば身体が浮いた。

「泣かないでリーリエ。皆さん一旦場所を移動しましょう。とても目立っています」

「リーリエちゃんどうかしたのかい?」

「いえ、なんでもありません」

「なんだコイツら見たことない顏だぞ! リーリエを泣かしたら俺がゆるさないんだからな!」

 いつも花を一輪くれる男の子の声が聞こえる。「痛っ」というヴィンスの声から想像するに、蹴りを入れられているのだろう。

「大丈夫だから。ヴィンス様を蹴らないであげて」

 横抱きにされたままユアンの胸に顔を埋めていても、騒々しさが手に取るように分かる。市場の中で喧騒に揉まれた私達は、そのまま近くの野原へ向かった。
< 313 / 374 >

この作品をシェア

pagetop