悪しき令嬢の名を冠する者
「俺が誤った時は首を落としてくれるかと思ってね」

「ヴィンスは本当に変な人ね」

「そうか?」

「ええ。殺されそうになったのによくやるわ」

「レイニーを殺そうとした真意を知りたいか?」

「怒っていたからじゃないの?」

「『俺の娘を危険に合わせやがって』だってさ」

 予想だにしない返答に間の抜けた声が漏れる。私に切っ先を向けた人の言葉には思えなかった。

「お前を切り殺すつもりは無かったらしい。フィンが守らなきゃ寸止めしてたんだと。俺と剣を合わせたのも、フィンを切りつけたのも嫌がらせだそうだ」

「随分、大袈裟な嫌がらせね」

 仲が悪いわけではなかったが、いいわけでもなかった私と父。そんなお父様の意外な一面に私は眉を寄せた。
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