悪しき令嬢の名を冠する者
 この国に来てから、私は〝リーリエ〟と名乗っていた。念には念を、というユアンの案だ。

 名前が変わったところで、賭した時間が変わるわけでも、罪が消えるわけでもなかった。だからこそ気付けたのだ。名前も魂も考えるに値しないものだと。

 恐らく私は前世のユアンに恋をしていた。けれどもあの時、それが恋だと教えてくれる人はいなかったのだ。故に私は己の気持ちにも気付けなかった。

 ユアンは、この転生を自らの執念の形だと言っていたが、それは間違いだ。

 彼に話したことはないけれども、私はこの縁を貶したくはない。だから、これは神様がくれたチャンスだと思うことにした。

 赤い糸は繋がっていて、だからこそ私達はお互いに辿り着けたのだ、と。

 それでも、それは〝キッカケ〟に過ぎないと思っている。やはり彼が魅力的だったからこそ恋に落ちたのだから。
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