悪しき令嬢の名を冠する者
「おとうさまー!」

「レイニー、お母様は?」

「いまくるー!」

「レイニー、走っちゃダメでしょう?」

「カタリーナ様お久し振りです」

「お久しぶりです。エレアノーラ様。約束は覚えているかしら?」

「勿論よ。あの時のこと、とても感謝しているわ」

「なら良かったわ」

 故郷を懐かしむ彼女と共に街並みを眺める。二人の子供は、やたら元気で笑みが零れた。

「それにしても愛人の名前を子供に付けるだなんて……ヴィンスは頭が、おかしいんじゃないかしら?」

「……この名前を二度と呼べなくなる方が辛かったんだよ」

 我が子を慈しむ表情は、すっかり父親のものだ。それでも少し歪んだ表情に罪悪感が募った。
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