悪しき令嬢の名を冠する者
 必死に逃げ回り落ち着いたこの土地。リーリエは気を張る必要がなくなった途端、暗黒に落ちた。

 一日中、布団の中で泣き明かし、食事もまともに摂らない。それでも「捨てるよ」と声を掛ければ、涙を零しながら必死に口に詰め込んでいた。

 けして食べたいわけではなかっただろう。前世での悔恨が彼女をそうさせたのだ。

 城で朝食を摂る彼女はハーブまで口にしていた。ハーブは香りを楽しむものだ。

 誰に咎められるわけでもないが普通食べることはない。けれども彼女は食べていた。

 きちんと揃えられた銀器。美しく終えられた食事。真っ新な皿には教訓が活きていた。

 正直、胸が痛んだ。食べたくないなら食べなくていいよ、と声を掛けたくなった。

 しかし、二度間違えてしまった彼女は、もう間違えないと言わんばかりに、せめてもの償いをするのだ。

 それを止められるわけがないだろう。
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