悪しき令嬢の名を冠する者
 愛を奏でるのならヴィンス様の方が上手いし、誓いならばフィンの方が上手だ。

 あらゆる語彙を使ってラブレターを連ねるならベルナールの方が上手いし、気持ちを真っ直ぐ伝えるのはロビンの方が向いている。

 だから黙って寄り添った。平穏な日々を過ごして欲しいと思うなら、捲し立てるよりも、ずっと近くに在れる気がしたから。

 僕が欲しがってた、たった一言をリーリエ様が零した時は、真珠が溢れてしまうところだった。

 死んでもいいや、ってくらいには幸せだったのだ。

 そうして僕達はレジフォルニアの情報を拒絶しながら年月を過ごした。

 だから知らなかったのだ。まさかあの作戦が成功を治めていただなんて思いもしなかった。

 ヴィンス様とフィンに二度と会うことはない。そう思っていたのに――
< 328 / 374 >

この作品をシェア

pagetop