悪しき令嬢の名を冠する者
 城から出ることも許されず、毎晩のように夜会に駆り出される。何より辛かったのはコルセットのキツイドレスだった。

 襤褸のようなワンピースで日々を過ごしていた私は、ウエストを締め付ける行為が、こんなに苦しいものだと知らなかった。まさに内臓が口から出そうな気分だ。

 嫁ぎ先の末皇子には未だ会ったことはなく、私は泣きたい気持ちで一杯だった。

 望んでいない結婚。望まれない花嫁。歓迎されない自身。自らの存在価値も分からなくなり、心が波打つ。



 そんなある日、私は夜会をひっそりと抜け出した。

 吐き気を堪えながら壁伝いに歩む。ホールで忙しなく働く使用人は廊下に一切おらず、私は安堵の息を漏らした。

 部屋に戻ろう。シラの小言など知るものか。

 しかし覚悟とは裏腹に膝には力が入らない。悔しさに唇を噛み締め、私は脱力した。
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