悪しき令嬢の名を冠する者
「貴女、レディがはしたなくてよ?」

 揺らぐ視界に冷汗を掻きながら崩れ落ちる。それと同時に、鋭利な声が耳を突いた。

 返す言葉もなく、顔を上げる余力もない私は、そのまま床を眺め掌で口を覆う。

「あら? 具合でも悪いのかしら?」

 白い手が私の額に触れる。顔を覗き込まれ、絡まった視線の先には目の覚めるような美少女がいた。

 十五歳ほどだろうか。女の子なら誰もが憧れるだろう美しい顔立ち。黄金比率を現したような佳麗な容姿に、私は体調が優れないにも関わらず「綺麗……」と零していた。

「コルセットね。いくら細く見せたくても締め付けすぎよ」

 その呟きに数刻前の地獄を思い出す。少し揺れるだけで既に吐きそうだ。私は眉根を寄せ、生理的な涙を浮かべた。
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