悪しき令嬢の名を冠する者
 傷だらけの身体を省みることもしないヴィンセント様。

 その表情に、声に、必死さに本当の愛を垣間見た気がした。

 敵わない。あんなに魅力的な人は他にはいない。何も持っていない私とは次元の違う人。

 それでも、彼の手を離してはいけないと思った。このままでは彼が傷付くだけだ。



「貴方は王でしょう!? たった一人に捉われるなんて妻の私が許さないわ!」



 そう叫び散らした私は、いつの間にか彼の頬を叩いていた。

 空気が硬直し、じわりじわりと焦燥がせり上がる。どもる私の耳を突いたのは、意外にも彼の笑声だった。

 その後、初めて頭を撫でられた私は胸の高鳴りを噛み締める。

 彼と一緒に国を立て直していれば、今の地位に自然と治まっていた。
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