悪しき令嬢の名を冠する者
 必要事項以外での、はじめての言葉だった。

 諦念するかのように自嘲し、次いで「突然ごめんなさい」と繰り出す彼女。息を呑むだけで精いっぱいの俺は、否定することも、ままならなかった。

「……汚いついでに私を穢してください。名前は〝ベルナール〟で合ってますよね?」

 男を誘う術を知っていることに、深い哀しみを覚えた。何か優しい言葉を掛けてやれば良かった、と今更後悔する。きっと彼女は俺に何か言って欲しかったのだ。

 人と〝会話〟がしたかった。女としてではなく、人として。

 けれども彼女は、その方法を知らない。知っていることは女を使うことだけ。

 それが酷く悲しくて、気付いた時には両頬を包み込んでいた。視線が絡む。身体が絡む。唇を絡めたら、もう止まらない。
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