悪しき令嬢の名を冠する者
 リーが捕まったとの知らせが届き、彼女を殺すよう命令が下ったのだ。
 
 俺は決死の思いでリーを助け出し、敵の追跡を振り切った。

 けれど間諜の間で仲間からの救出は死を表す。俺は逃げ切ったことに安堵するよりも恐怖していた。



 これからもう一度〝あんな想い〟をするのか、と。

 これから彼女の鼓動に刃を突き立てなければいけないのか、と。



 今、傍らを覗いたら彼女が事切れていればいいとさえ思った。

 これだけ拷問の跡が色濃く残っているのだ。もしかしたらもう――

 けれど、振り仰いだ彼女の瞳は相変わらず透き通っていて、俺のこころは掻き乱された。
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