悪しき令嬢の名を冠する者
 ――嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 ――殺したくない。殺したくない。殺したくない。




 でも、と宿る思いが俺を侵食する。




 ――裏切ったら俺が殺される……




 恐怖だった。世界の全てが恐ろしくて、肩にかかる彼女の温もりも怖くて仕方なかった。

 だから突き落とした。レジフォルニアの国境に差し掛かる深い森で、俺は彼女を川へ突き落したのだ。

 リーの身体が翻り、視線が絡む。その目が見たくなかったから背を押したというのに、一体これはなんの罰だ。

 一瞬、吃驚に染まった表情に哀しみが混じる。透明な瞳が全て哀愁に染まった頃には、既に彼女は消えていた。
< 366 / 374 >

この作品をシェア

pagetop