悪しき令嬢の名を冠する者
「大体ね! 知ってたなら普通に協力してもよかったんじゃなくて? というより、ユアンと逃げる前にネタばらししなさいよ! 悪の貴族が形無しじゃない! 私が……私が、この10年……どれほど苦しんだか……」

「他の国はどうだった?」

「え?」

「王妃の祖国はどうだったって訊いてるんだよぉ?」

「とてもいい国だったわ……」

「それだけかな~?」

「いいえ、まだ貧富の差は激しいから国政としては失敗よ。痩せた土地に作物をという考えが間違ってるわ。国を豊かにするなら先行投資も必要よ。恐れていては〝未来〟なんて見えないわ」

「うんうん。勉強はちゃ~んとしてきたみたいだね?」

「どういう意味かしら?」

「これなら官職を与えても良さそうだ。ちょうど財務に適任がいなくてねぇ」

 彼が何を言いたいのか俺にも分かった。彼女は、とうの昔に気付いているだろう。何枚も上手の侯爵様に怒りをぶつけている。

 全てはエレアノーラ嬢を他国に送り〝勉強〟させる為だったのだ。経験は知識に勝る。己の目で見た世界は個々の色があるのだから。

 悪くないとは俺は思うが、その為に払った代償が、この上なくエゲツない。
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