悪しき令嬢の名を冠する者
「アンタは凄いね」

「え?」

「美しさは偉大だ、って言ったんだ」

「フィン?」

「ここからが本番です。気を引き締めてください」

「……分かってるわ」

 彼の表情は見えない。前を向いて猛々しい足音を立てているのだから当然だ。それでも背中は怒っていた。

 自身は何かミスをしてしまったのだろうか。先程は中々悪くなかったと思うだけに、言葉を掛けることは出来ない。ぎゅっと手を握る。



 本当は不安なの。

 私に出来るかしら。

 怒らないで。



 すべてを乗せて想いを込める。けれど伝わることは無かったのだろう。フィンが手を握り返してくれることはなかった。
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