悪しき令嬢の名を冠する者
「では単刀直入にお訊ねするわ。ヴィンセント様は王になってみたくはない?」

 レイニー様は気にする様子もなく話を繰り出す。彼女が、どうするつもりか知らない俺は拳を握りしめ、只管、嫋やかな音色に耳を澄ました。



 ——作戦など考えたところで無駄よ。



 そう言っていたレイニー様を思い出し、威儀を正す。

 主人が懸命に戦っているのだ。俺の意思など関係ない、そう言い聞かせて。

「どうせ壊れる国に興味はないな。大事なのは〝今〟だ。第一、お前が俺を王にしてくれるとでも言うのか?」

「ええ。貴方を王にする代わり私に協力してほしいの」

「一令嬢にそんなことが出来るのかい?」

 王子は唇を歪めるが、レイニー様は魅力的な笑みを崩さない。〝イエス〟と答えるとは思えない剣呑な雰囲気が場を覆っていた。

 観客と化している男達は顔を見合わせ「どういうことだ?」と疑問を投げ掛け合っている。

 ベルナールの信頼を得ているユアンが動かないことで、どうするべきか考えあぐねているようだった。
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