悪しき令嬢の名を冠する者
「私、思い通りにならないことが嫌いなの。貴方は、その地位で満足? もっと自分の好きなことをしてみたくはない?」

「俺は今の生活に満足している。十分、好きに暮らしているさ」

「本当に? 神に誓ってそう言える?」

「君は神に背く行為をしていながら、清いモノに縋るのか?」

「清いモノが清い者を好くとは限らないわ。悪で在ることが善の場合もある。要は結果でしょう?
 けれど嘘は罪悪よ。だから問うの。貴方は本当に嘘を吐いていないの? って」

「俺を抱え込んで、どうする気だい?」

 彼は問いに答えなかった。人間には欲がある。当然、彼だって末王子であることを嘆いた筈。

 それがいつのことだったかは分からないけれど、信心深い王家のことだ。僅かでも爪を立てることが出来たようで、俺は安堵の息を漏らした。

「簡単なことですわ。この国を壊すのよ」
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