悪しき令嬢の名を冠する者
「つまり私は、ただ遊ばれていただけということなのね」

「ああ。ユアンは俺に進言したりしない。フィンとコソコソしていたのは知っていたが、まさかヴェーン家の令嬢が来るとは思わなかったから驚いた。俺を楽しませるには、それで十分だったというのに、君は〝傾国の美女〟になりたいだって? おかしいね。ククッ……腹が捩れるよ!」

「貴方ね!?」

「だから興味が湧いた。他の令嬢がそんなことを言えるか? 言えないだろう? 歴史に残すのにも面白い。俺を動かすには十分な言葉だったよ」

「悔しいわ……」

「勝負に勝ったのは君だよ。エレアノーラ」

「敗北感を感じるのよ。私は貴方に遊ばれることを想定していなかった。馬鹿な自分が悔しいの」

「いいね。いいよ。君は本当に面白い。素直で聡明だ。さぁ、願いをお姫様」

「なら私を愛人にして」

「そんなことでいいのか?」

「城に出入り出来る〝理由〟が欲しいの。出会いは何でもいいわ。私を見初めて」

「〝私を見初めて〟花言葉のように美しい言葉だね。君にピッタリだ」

 王子は一つに括ったプラチナブロンドを揺らしながら、顎に手を添えニッコリ笑む。その姿に眉根を寄せたレイニー様は、やはり美しくて令嬢そのものだった。
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