悪しき令嬢の名を冠する者
第11輪*side フィン*
「フィン、ちょっと」
一息吐いたあたりで名を呼ばれた。喧騒に掻き消えてしまいそうなほどのユアンの声は静かで、抑揚など孕んではいない。
「ああ。いいのか? 王子を一人にして」
「僕は君に訊いた方がいいのかな? エレアノーラ様を一人にしない方がいいのか? って」
「すぐに駆け付けることくらいできる」
「僕も一緒さ。とは言ってもカウンターに移動するくらいだ。二人の姿は確認できる」
「ああ」
言葉少なに告げた彼がカウンターからウィスキーを取り出す。透けたグラスに琥珀が揺れ、氷が涼し気な音を立てた。
一息吐いたあたりで名を呼ばれた。喧騒に掻き消えてしまいそうなほどのユアンの声は静かで、抑揚など孕んではいない。
「ああ。いいのか? 王子を一人にして」
「僕は君に訊いた方がいいのかな? エレアノーラ様を一人にしない方がいいのか? って」
「すぐに駆け付けることくらいできる」
「僕も一緒さ。とは言ってもカウンターに移動するくらいだ。二人の姿は確認できる」
「ああ」
言葉少なに告げた彼がカウンターからウィスキーを取り出す。透けたグラスに琥珀が揺れ、氷が涼し気な音を立てた。