悪しき令嬢の名を冠する者
 辺りを見渡せば自室のようで、以前の私の部屋と、そう変わらないように見える。天蓋付の華々しい寝台。連なる衣裳ダンス。木造りのテーブルも、カウチだって私の部屋にあったものと似ている。

 身に付けているネグリジェも似たようなデザインで淡い桜色が可愛らしい。いいもので認められているのだろう。着心地は、とても良かった。難を言えば少しばかり派手な気がするくらいだ。

 けれども、これはこの少女の趣味なのだろう。鏡台を撫ぜいていると控えめなノックが耳を突いた。

「失礼いたします」

 ビクリと肩を揺らし白い扉を見つめる。様子を伺っていれば、女性の声が聞こえ、ほっと胸を撫で下ろした。

 音を立てないようにしているのだろう。その気遣いがメイドの質を表しているようだった。

「お、お嬢様!? 失礼しました! まさか起きているだなんて……!?」

「なんなの貴女、失礼ね。クビよ」

「お嬢様それだけは!」

 一気に顔色を悪くするメイドを一瞥し、自らの言動に破顔する。口が勝手に動いたのだ。

 そんなことは微塵も思っていないし、何がなんだか分からない。それでも口を吐いて出た言葉は、あまりにも酷いものだった。
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