悪しき令嬢の名を冠する者
「今は酒場の店長だよ」

「二重スパイがよく言う」

「三重だよー」

「何重でもいいって。大切なのはベルナールが創設者だってことだけだから」

「それはトップシークレットだよ? フィン。俺が〝烏〟だってこともね」

「トップシークレットが二つじゃトップじゃないけどな」

「細かいなぁ。真面目組は」

「僕、何も言ってませんけど」

「顔が語ってた」

「無表情ですが」

「自分で言う!?」

〝烏〟とはスパイの暗喩である。元々、彼は軍人で間諜をしていた。あらゆる国を飛び回り情報を集め、そして国の惨状を知ったのだ。

 そこでまず声を掛けられたのが俺とユアンである。俺は貴族との繋がりを持つように命を受けヴェーン家に送り込まれた。

 しかし、ここで誤算が発生する。あろうことか我儘令嬢の護衛に回されたのだ。ゆっくり溶かそうと思っていた主の心を解せるわけもなく燻っていた時。レイニー様は変わった。
< 64 / 374 >

この作品をシェア

pagetop