悪しき令嬢の名を冠する者
「意味が……分かりませんわ……」

 何故かひどく腹立だしくなった。心の中で思ったのは〝なんで言う通りにしないの!?〟である。明らかに今までとは違い過ぎる考えに驚きを隠せない。

 とりあえずカーテンを開けて外を眺めれば立派な庭園が広がっていた。薔薇園に噴水。緑溢れる草花。きっと窓を開ければ、薔薇の芳香が漂ってくるのだろう。

「城の庭園にそっくりですわ……」

 ふと記憶が脳裏を過る。私が先程のメイドに怒鳴らり散らしている場面だ。

「そう……あの子はマリー……最近、私の世話係になったメイド……」

 一つ思い出すと同時に私の頭は記憶に占拠された。産まれてから今迄のことが早回しで再生される。先程と同じように私が見てきた世界を鮮やかな感情で彩ってだ。

 全てが終えた頃には自分が誰で、此処がどこで、今迄どうやって生きてきたかが分かった。根強く残る今の〝私〟がどんな人間かも。
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