悪しき令嬢の名を冠する者
「分かればいいんだ! ではエレアノーラ様、私の部屋に……」

「ごめんなさい。実はお父様が……」

 敢えて〝なに〟とは言わない。けれども言葉の先を想像した彼は焦ったように目を泳がせていた。

「で、では! 異国の菓子など如何です? 珍しい細工の小物もありますし」

「それは見てみたいわ! でも、まだ御挨拶も終わっていなくて……」

「そこは心配しなくても大丈夫ですよ。皆様、楽しんでおりますから。当家では、そんなに畏まらなくてもよいのです」

「では、少しだけ」

「参りましょう。レディ」

「はい」

 本当に馬鹿な男だ、と胸中で揶揄する。彼の手を取れば、心底嬉しそうに胸を張っているのだから救いようがない。

 私が呆れていることにも気付かず、自慢話を繰り広げているあたり、随分平和な頭だと胸懐で嗤った。

 満面の笑みを作りながら頷く。時折、立ててやれば、ガストン様は饒舌に外の国について語った。

 つまらない話は耳半分が定石だ。話もそぞろに周囲を確認する。目端にヴィンセント様を捉えた瞬間、私は勝利を確信した。





 ――さぁ、この舞台に引きずり込んであげますわ。
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