悪しき令嬢の名を冠する者
「え……」

「私は女。家を継げないことは、ご存知でしょ? お父様のことは嫌いじゃないけど、家なんてどうなっても構わないのよ」

「そ、そうなれば君は好きでもない奴と籍を入れなければいけなくなるんだぞ」

「貴族の間じゃ珍しくもない話でしょ。それに、それは貴方と結婚しても同じこと」

「どういう意味だ」

「ハッキリ言わないと分からないかしら? 私は貴方のことが好きでもなんでもない、と言ったのよ」

「じゃあ、どうしてそんな素振りを」

「恋愛ごっこを楽しみたくて。貴方だって私の美しさに目が眩んだだけで、好きなわけじゃないでしょう?」

 ニッコリ笑みながら寝台に向かう。彼からのプレゼントに腰掛ければ、眉をピクリと動かしたのが分かった。

 ベッドがギシリと音を立てる。勝負はココからだ。
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