悪しき令嬢の名を冠する者
「私はヴェーン侯爵家令嬢、エレアノーラ・ヴェーン=テンペスト=ステュアート。十三歳。我儘でヒステリックな女の子……私が私だと思っていた私は死んだのね。生まれ変わった、ということになるのかしら……」
扉をノックする音が聞こえた。次いで間も置かず扉が開かれる。
「レイニー様、メイドが困ってらっしゃいますよ」
「私の部屋にズケズケと入ってくるなんて、本当に礼儀がなっていませんわね。フィン」
声の正体は分かっている。だって私はエレアノーラ。もう姫じゃない。
思いが私を支配する。この男を嫌いだという感情が。うるさい護衛係が嫌いだと心が叫んでいた。
フィンレイ・ミルウッド。赤茶髪を真ん中で分けた彼は、透き通るような翠眼を惜しげもなく晒している。無愛想で、無礼で、敬意を払わない様に私はいつも怒りを募らせていた。
彼とは、もう三年の付き合いだ。仲が悪いのは周知の事実である。
姫じゃないなら、もう自由に言葉を発していい筈だ。今迄の〝エレアノーラ〟が、そうしてきたように、感情に身を任せて言葉の刃で刺してやろう。
前世の私は清く生きていた。けれども、いくら清らかであろうが、最後は民に殺されたのだ。優しくあろうとした心根を踏み躙られた。ならば好きに生きて死にたい。
きっと、この生まれ変わりには意味がある。前世の記憶が戻ったのにも意味はあるのだ。以前の私に説いているのかもしれない。前世の分まで自由に生きろ、と。
扉をノックする音が聞こえた。次いで間も置かず扉が開かれる。
「レイニー様、メイドが困ってらっしゃいますよ」
「私の部屋にズケズケと入ってくるなんて、本当に礼儀がなっていませんわね。フィン」
声の正体は分かっている。だって私はエレアノーラ。もう姫じゃない。
思いが私を支配する。この男を嫌いだという感情が。うるさい護衛係が嫌いだと心が叫んでいた。
フィンレイ・ミルウッド。赤茶髪を真ん中で分けた彼は、透き通るような翠眼を惜しげもなく晒している。無愛想で、無礼で、敬意を払わない様に私はいつも怒りを募らせていた。
彼とは、もう三年の付き合いだ。仲が悪いのは周知の事実である。
姫じゃないなら、もう自由に言葉を発していい筈だ。今迄の〝エレアノーラ〟が、そうしてきたように、感情に身を任せて言葉の刃で刺してやろう。
前世の私は清く生きていた。けれども、いくら清らかであろうが、最後は民に殺されたのだ。優しくあろうとした心根を踏み躙られた。ならば好きに生きて死にたい。
きっと、この生まれ変わりには意味がある。前世の記憶が戻ったのにも意味はあるのだ。以前の私に説いているのかもしれない。前世の分まで自由に生きろ、と。