悪しき令嬢の名を冠する者
 ――なんですのこれ? どうして助けにこないの?

 騙されたのだろうか。いや、もしかしたら此方に向かっている最中なのかもしれない。

 ——けれど、もし助けにこなかったら?

 そう思うと身体が震えた。生理的な涙が恐れの感情に変わる。

 申し訳程度に蹴り上げようとすれば、右足を捉えられた。

「危ないなぁ」

 脹脛に頬を擦り寄せられ肌が粟立つ。舌が伸びるのが見え、吐き気がした。
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