悪しき令嬢の名を冠する者
「フィン、矛を収めよ」

 フィンを諫める声にも温もりはなく、恐怖を感じる。向けられてもいない言葉で、身を震わせるなんておかしな話だ。

「嫌です」

「ヴィンス様に刃を向けるというなら僕が……」

「違う。その男が許せないんだ」

「そういうことなら僕も加担しよう」

「フィン、ユアン、これはエレアノーラの作戦だ。彼女の言葉以外で動くな」

 ヴィンス様の言葉に二人が浮いた刃を鞘に収める。それを見ていたガストン様は肩を震わせ、情けない顔で蒼褪めていた。

 私はこんな男に怯えていたのか、と自嘲する。自らがとても弱い人間に思えた。
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